2011年10月22日土曜日

鉄塔 武蔵野線 − 銀林みのる(1994)

 冒険のはじまりは何かを辿ってみること。例えば川の源流を探したり、鉄道路線の終点まで行ってみるとか。それは旅や散歩でも同じこと。
 それに何かを集めることが加わると、楽しさが倍増します。キロポストを拾いながら多摩川サイクリングロードを走るとか、スタンプラリーで鉄道全駅のスタンプを集めて完乗するとか。
 ある夏の日、少年の冒険は「75−1」という番号が付けられた高圧鉄塔から始まります。電線(武蔵野線)に沿って74、73、72、…と鉄塔を数え、友達と二人、1番の立つ(はずの)原子力発電所を目指して自転車を走らせて行きます。
 冒険の過程で、少年たちは様々な困難を乗り越え、多くの人とふれあい、新しい経験を積み重ねて成長していく、 というとありきたりですが、実はそんなことはこの本の中ではどうでも良いこと(!?)なのです。
 ほかの作者なら、「30番台を過ぎ、20番台をクリアしていくうちに、高かったはずの夏の太陽は西の地平線の間際まで近づき、23番に着いた時にはもう番号表示がほとんど見えなくなっていた。」みたいな感じで、冒険を(中略)とすることでしょう。ところが、この本では律儀にすべての鉄塔が描写されるだけではなく、実際の鉄塔の写真までが丁寧に付されているのです(わたしの持っている新潮文庫版より、新装なったこのソフトバンク新書版の方が、写真が充実しています)。
 鉄塔なんかに興味はなくても、この「鉄塔LOVE」な一途さについつい引き込まれて読了してしまう。そして、自分も鉄塔巡りをしてみようかなと、ふと思ってしまう、そんな不思議な小説です。

0 件のコメント: